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見えない・きこえない「盲ろう」とは? その実態と課題をきく~神奈川盲ろう者ゆりの会 会長・川島朋亮さんインタビュー

複数の障害を併せ有する「重複障害」。目(視覚)と耳(聴覚)の両方に障害を持つ「盲ろう者」をご存じでしょうか。「盲ろう」は知らずとも、ヘレン・ケラーと聞けばイメージがつく方も多いかもしれません。
社会福祉法人全国盲ろう者協会の平成24年度の実態調査によれば、盲ろう者は日本全国に1万4千人ほどいるとされていますが、視覚障害者や聴覚障害者に比べると少数で、一般には知られていないことも多い障害なのです。

今回は「神奈川盲ろう者ゆりの会」会長を務めている川島朋亮さんに盲ろうが抱える課題や実態について、お話を伺いました。

どうやって情報を得ているの?

「盲ろう」と一口に言っても、そのきこえ方や見え方は様々です。大まかには

・全盲ろう(全く見えず、きこえない)
・弱視ろう(見えにくく、きこえない)
・全盲難聴(全く見えず、きこえにくい)
・弱視難聴(見えにくく、きこえにくい)

に大別され、川島さんの場合は「弱視ろう」。左側はほとんど失明をしており、右目は白濁を伴う視野狭窄。生まれつきのろうあ者で、35歳の時から段々と視力が落ち、盲にもなったと言います。

見えにくく・きこえない中で、日常生活でどのように情報を得ているのでしょうか。

「普段は、パソコンでのメールやインターネットを使用して情報収集しています。ディスプレイの背景色を黒に、文字は白または黄色、かつ、フォントを大きく表示させ、盲人にも見えやすい設定にしています。盲人用のキーボードもありますが、最近はネット販売になっていて、私にとってはネットでの購入自体がなかなか難しいので、代わりに通常のキーボードを購入し、特定のアルファベットに小さなテープを貼って目印となる突起を作ることで、キーボードの配置を覚えています。

ですが、段々と視力も落ちてきていますから、『ブレイルメモ』という、電子データや文章を点字に変換してくれる情報端末機器を今、学んでいるところです。例えば、メールをテキストコピーしてUSBに入れてブレイルメモに読み込ませると、点字に変換され、読むことができるのです」

ブレイルメモのように、時代の流れとともにテクノロジーでカバーされる部分も増えていると言われていますが、一方で、盲ろう者向けの機器開発はまだ十分ではないとも感じていると川島さんは話します。

「例えば、盲ろう者が触ってわかるように凹凸の工夫をされている腕時計であったり、健康管理に欠かせない体温計では、スマホやパソコンにつなぎ、結果データをピンディスプレイ(※1)に転送して表示する方法があったりしますが、全体的には盲ろう者のための機器の開発はまだまだ少ないと言えるのではないかと思います。
過去には、振動を用いて障害物の接近を知らせたり、駅のホームで電車が来たことを知らせてくれるものなどもありましたが、現在は販売が終了してしまっている機器も多いのです。
2022年に日本で初めて障害者の情報コミュニケーション保障のための法律が立ち上がりました。今後盲ろう者の声も聴きながら、盲ろう者もすぐに情報を得られるように使いやすい機器の開発が必要だと思います」
※1:パソコンの画面に表示される文字情報や図形情報などが点字や点図として表示される機器

 

コミュニケーション方法は一人ひとり異なる。教育現場では?

では、他者とのコミュニケーションはどうでしょうか。

一人ひとり、見えづらさやきこえづらさも異なる盲ろう者。
先天性か後天性か、育った環境によってもコミュニケーション方法は異なり、一律には言えません。

「例えば僕の場合には、生まれた時は目は見えていました。その時には手話をコミュニケーション方法として使っていましたが、35歳の時に盲人にもなったことで、手に触れて手話を読みとる『蝕手話』という方法に変わりました。
他には、例えば難聴・弱視の方であれば、残っている残聴力を使って、通訳介助員(※2)とともに、話すスピードや音の高さ、テンポを調整しながらお話をしたりしています」
※2:盲ろう者の目と耳の代わりとなって、視覚情報の提供やコミュニケーション支援、外出時の移動介助を行う人

他にも、「指点字」や「手書き文字」など様々なコミュニケーション方法があります。

一人ひとりに合わせたコミュニケーションを身に着けていくことが望ましい一方で、生まれつきの盲ろう者や、他の機能障害を併せ持つ場合には、やはりコミュニケーションとして「言葉」を教えることは難しい面もあると言います。
そこで行われているのが、『オブジェクトキュー』というコミュニケーション訓練です。

「『オブジェクトキュー』は、その人に合わせて特定の物をいくつか選び、状況に合わせて物を渡すことで伝えるコミュニケーション方法です。例えば、お昼の時間になった時にフォークやスプーンを渡し、子供はそれを触ることで『もうすぐお昼になる』ことを理解する。そうやって、少しずつ物に名前があるということを盲ろうの子供たちに理解してもらうような指導方法を取っています」

盲ろうの子供たちのコミュニケーション訓練は、他の障害と一括りにはできません。
ですが、ここに一つの課題があります。

「アメリカやヨーロッパでは盲ろうの子供たちの教育のための学校がありますが、日本を含めたアジアには、まだ専門の学校や教育システムがありません。日本では、盲ろうの子供たちは、盲学校やろう学校、その他の養護学校(現在は特別支援学校)、また、神奈川県の場合には自立訓練校で学習している子供もいます。盲ろうの子供たちのための教育システムを作ってほしいというのは、大きな願いです」

 

「盲」か「ろう」どちらかを選ばなければならない?

日本には現在、1万4千人ほどの盲ろう者がいるとされていますが、実は身体障害者福祉法上では規定がされていません。そのため、「盲」か「ろう」か、どちらかを選ばなければならない場合もあるといいます。

「例えば、障害者スポーツ大会では障害に合わせてルールが設けられていますが、盲ろう者のためのルールはありません。そうすると、盲ろう者は「盲」か「ろう」か、いずれかを選んで参加しなければならないのです。そうした中で、練習時には一緒に競技場に入れる通訳介助員も、本大会では入ることができず、練習で残せた好成績を本大会では発揮できなかった事例もあったと聞いています」

川島さんによれば、「盲ろう」は1991年頃から使われ始め、メディアを通じて広まっていった言葉だといいます。法律上で定義されていない曖昧さがそこにはあります。

「一般の方では、『盲ろう』の意味がわからない方もまだまだたくさんおられます。私自身、『盲ろう者です』と言うと、『盲ろう者ってなんですか?』と逆に問われることも多くあります。国に対し、しっかりと定義を設けてほしいという要望を何度か出してはいますが、なかなか認められない状況が続いています」

 

互いにサポートし合い、楽しめる社会のために

盲ろう者にとって困難なことの代表として「情報入手」「コミュニケーション」そして「外出」があります。近年ではコロナ禍によって在宅勤務も増えてきていますが、職場への通勤は、働くにあたって今なお大きな要素です。

2011年よりスタートした『同行援護制度』(※3)によって、家から職場までの移動を支援してもらえる地域も出てきており、盲ろう者の移動時の困難は緩和されつつあるといいます。
ですが、仕事場では「コミュニケーション」も大切。盲ろう者が楽しく仕事をするためには、まだまだ選択の幅は狭い、と川島さんは話します。
※3:視覚障害により、移動に著しい困難を有する障害者等につき、外出時において、当該障害者等に同行し、異動に必要な情報を提供するとともに、移動の援護、その他厚生労働省令で定める便宜を供与すること(障害者自立支援法 第5条4)

「私の場合には、盲ろう者が集まる作業所に通所していて、手話を身に着けた職員の方々も多くいますので、盲ろう者同士はもちろん、職員とも毎日楽しみながらコミュニケーションをしたり仕事をしたりして生活を継続できています。

このように、仕事場では、スムーズに業務を進めるためにも、上司や同僚など職場の方々とのコミュニケーション環境も大切ですよね。
ですが、一般の職場では、情報コミュニケーション保障はまだまだ進んでいない状態でありますし、私が通うような盲ろう者の作業所は、神奈川県では一か所だけしかありません。全国でも、関東に一つ、大阪に二つ、それから兵庫と徳島には盲ろう者に限らない重複障害者の施設があります。やはり、どうしても少ないですね。
盲ろう者も自分のペースに合わせて楽しく仕事ができるこうした作業所が、全国各地にもっと立ち上がるように希望しています」

神奈川盲ろう者ゆりの会 会長として、小学校での講演を行う機会があるという川島さん。
これからの社会を作る子供たちに伝えるメッセージとして、大切にしていることがあると言います。

「盲ろう者として『大変』『不安』といったことではなく、できるだけ『できること』や『工夫』をお伝えするようにしているんです。例えば、朝起きる時。アラーム音はきこえないけれど、代わりに振動を使って目覚める。火を使った料理をすることもできます。そういうことを伝えると、子供たちは興味を持って聞いてくれます。

障害者=マイナスなイメージではなく、プラスの面や楽しいことを伝えることを大切にしています。子供たちも障害者に関心を持って成長すれば、心のゆとりを持って、互いにサポートし合う環境づくりをすることができると思います。
そんな社会で生きていきたいですよね」

 

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