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【レポート】目指せ!スローコミュニケーションタウン
茅ヶ崎をスローコミュニケーションのモデルタウンに。スローコミュニケーションプロジェクトが目指す目標のひとつです。まずは茅ヶ崎駅からサザンビーチへと続く雄三通りを舞台に、スローコミュニケーションを導入する。そんなプロジェクトが実行中です。
※本レポートは2022年4月刊の冊子に掲載されたものです。
実証実験を経て段々と形が見え始めている雄三通りのスローコミュニケーションストリート構想。将来的には、雄三通りだけではなく、茅ヶ崎市、そして全国、世界の様々な場所に、スローコミュニケーションが広がっていくことを描いています。まずは茅ヶ崎をスローコミュニケーションのモデルタウンに。進みつつあるプロジェクトから、「つちや商店」の事例を紹介します。本プロジェクトは、神奈川大学工学部経営工学科人間工学研究室との共同研究として2022年度から本格始動します。
2022年2月上旬。『指伝話』の高橋宜盟氏と共に、つちや商店を訪れました。お酒やおつまみがずらりと並ぶお洒落な店内。入り口には、2021年5月にオープンしたという小さな角うちスペースが設けられており、コミュニケーション好きというご主人のこだわりが見える店構えです。出迎えてくれたのは、土屋ご夫妻。まずは指伝話の基本機能について、高橋氏から実演と共に説明が行われました。
普段、自身の講演会でも日常的に指伝話を活用しているという高橋氏。「後ろを向いているお客さんにも声を掛けられるのがメリットですよね」「外国語を使ったり(“Bonjour”“你好”など様々な国の「こんにちは」を流す高橋氏)、音声スピードを変えることもできるんです。笑いを取りたい時に僕がよくやる手です、テッパンですよ!(笑)」「お店で使用する場合には、おススメのお酒や飲み方を事前に登録しておいて……」など、“冗談好き”という哲雄さんのパーソナリティもくみ取り、具体例を挙げながら接客時の使用イメージを伝えていきます。
真剣な眼差しで説明に聴き入る哲雄さんと久美子さん。哲雄さんは、日常的には筆談を行なっていますが、電動式人工喉頭(=人工的に喉に振動を生み出す発声補助器具)を使用し、声を出すことは可能です。しかし、「喉に機械を当て、声を出す」という見慣れない発話方法を笑われてしまったことがあり、それ以来すっかり接客での会話は控えているといいます。
「冗談を言うのも大好きだったのに、ある日突然、その“ふつう”がなくなって、精神的に落ち込んでしまったところもあるみたい」と、身近で支えてきた久美子さんからの一言。「本人の感覚は本人にしかわからない」と笑いながらも、長年、コミュニケーション大好きなその姿を見てきたからこそ、この先何十年と生きていく中で喋れないことが哲雄さんにとってどれだけの精神的負荷になるのか――その計り知れない大きさに不安ややるせなさを窺わせながらも、「不便は解消されますから」という高橋氏の心強い言葉に、しっかりと頷いていました。
2月下旬には、神奈川大学人間工学研究室の学生二名が実際につちや商店を訪れ、店頭の様子をヒアリング。どのような形が実現できれば良いのか、すり合わせていきました。お酒一つひとつを丁寧に解説した「メニュー表」を使って「情報伝達」をしたいのではない、と表情を曇らせた土屋ご夫妻。お客様一人ひとりに合わせた「コミュニケーション」でお酒の楽しさ・素晴らしさを伝えるにはどうすればよいだろうか。
「コミュニケーションは“キャッチボール”だけではなく“その瞬間を誰もが共有できるあたたかな場づくり”でもあります。」と言うのは、4Hearts代表の那須かおり。情報を共有するだけなら、後から伝達すれば目的は叶う。しかし、それでは〈スローコミュニケーション〉が目指す本質にはたどり着かない。同じ瞬間に笑ったり、泣いたりできる。相手とその場・その時を共有していること。これが重要だと話します。
プロジェクト本格始動の2022年4月に向けて、向き合う課題が改めて明確化されました。
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