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『こころで聴く図書館 第2章 囚われの勇者とガラスの迷宮』開催レポート
冒険の先、たどりついた「ガラスのびん」の正体とは…
卒業・入学シーズンを迎え、心新たに出発する春。
心弾ませ飛び込んだ環境で、もし、耳がきこえなかったり目がみえなかったり、あるいは言葉がうまく出なかったり…
そんな人と出会ったらどうしますか?
* * *
2024年2月12日(月・祝)、「みえない・きこえない・はなせない」を体験する参加型イベント『こころで聴く図書館 第二章 囚われの勇者とガラスの迷宮』が茅ヶ崎市立図書館にて開催されました。
このイベントでは、冒険者たち(参加者)がアイマスクを付けて「見えない」状態、特殊ノイズが入ったヘッドフォンで「聞こえない」状態、そしてバツ印のマスクで「話せない」状態を体験します。3人で1組のチームを組み、協力し合いながら図書館に隠された指定の本「魔法書」を探す冒険に挑戦します。
ゲーム感覚で、楽しみながら相手の立場を理解し、それぞれの出来ることで力を合わせて課題を解決する重要性や、当事者と共に考える大切さを学ぶ体験を提供しています。
相手の気持ちや事情を一歩想像する“スロー”(=心のゆとり)なコミュニケーションを推進する「スローコミュニケーションプロジェクト」の一環として、一般社団法人4Heartsと茅ヶ崎市の共催で開催されました。
ストーリー仕立てで進む本イベントの案内人は、茅ヶ崎の平和を守る3人の勇者〈カイ〉〈ノア〉〈ローガン〉。
2022年秋に開催された第一弾では、彼らとともに茅ヶ崎を不穏なカゲで覆い尽くそうとする〈闇の魔王〉と戦い、今回の第二章では、突然現れた「ガラスのびん」に閉じ込められた3人を救いに出かけます。さて、物語の結末は? 小学4年生~小学6年生までの総勢24名が参加しました。
今回の開催では、ブラインドサッカーチーム「スフィーダ世田谷BFC」の皆さんの協力のもと、絵本の読み聞かせから始まりました。スタッフや選手のあきちゃん・ムーさんも駆けつけて、冒険者と一緒に「はじめまして」を読み聞かせながら挨拶をしたり、ウクレレを弾いたり歌ったりして、イベントを盛り上げてくれました。
イベントの重要なキーワードのひとつが「想像する」こと。
そこで、今回スフィーダのみなさんと読み聞かせに選んだのは、『どんなかんじかなあ』(自由国民社)という絵本。主人公のひろくんが、目がみえなかったり耳がきこえなかったり、色々な立場にある友達のことを想像してみる物語です。
「みえないってどんなかんじかなあ?」
ひろくんと一緒になって目をつぶって、シーンとした部屋の中できこえてくる音に耳を澄ませてみたり……と、絵本を追体験する冒険者たち。これから始まる実際の体験を前に、まずは想像してみることから始めます。
今回のイベントには、『冒険の書』と名付けられたワークブックが用意されており、所々で考えたことを書き込みながら進行します。心や頭で感じ考えたことを文字にすることで、その時々の想いや考えを整理しながら進めるとともに、イベント終了後にも振り返れる記録として残していく狙いです。
みえなかったら? きこえなかったから? 話せなかったら?
どんなふうに感じるだろう?
それぞれが真剣な表情でペンを走らせます。
さて、いよいよイベント本丸、「魔法書」探しへ!
体験のルールは3つ。
・きこえない人は目がみえない人のお手伝いができる
・はなせない人は書いて伝えることができる
・みえない人は本にさわることができる
そう、重要なことは、「みえ“ない”」「きこえ“ない”」「はなせ“ない”」というでき“ない”ことに注目するのではなく、「できる」ことがあるということ。その力を使って協力し合うことで、目的が達成できるのです。
本探しのスタートは、魔法書のありかを示す地図などのヒントを手に入れることから。ヒントを得るためには、各チームに与えられたキーワードをもとに「道具屋」と「武器屋」を巡り、ペアとなるアイテムを揃えて「情報屋」に渡さなければならないのですが、これがなかなかの難関。
与えられたキーワードを持って、まずは武器屋に向かう冒険者たち。
「ドラゴンの絵柄をください」
声をかけて伝えても、首をかしげる道具屋の人々。
そう、武器屋さんは「きこえない」人。
冒険者たちが「○○をください」と声で伝えようとしても伝わらず、別の方法を考えなければならないのです。
筆談をしてみるチーム、ジェスチャーをしてみるチーム。様々な方法でコミュニケーションを試みます。ぶち当たった最初の関門に困惑気味な様子もありつつ、「あれをやってみよう!」「こうしたらどうかな?」とアイディアを出し合い、なんとかコミュニケーションを取っていきます。
続いて向かうのは武器屋です。
ここでも同じく、キーワードである「絵柄」を伝えようとするけれど、今度は……
「みえないから、なにが描かれているのかはわからないよ」
そう、武器屋はみえない人たちでした。
目印にしてきた絵柄はコミュニケーションに使えない。じゃあなにを伝えたらいいんだろう?
武器屋に並ぶアイテムに形があることに気づいた冒険者たち。
今度は「形」を伝え始めます。
しかしすぐに次の関門が。
そう、絵柄には色があったんです。同じ色のものを揃えなければ、地図はもらえません。
「ピンクの絵柄のやつじゃなくて、黄色のやつ」
「色はみえないからわからないよ!」
「あっちのやつ」
「“あっち”って言われてもわからないよ!」
伝えるって難しい。
段々と、「右手を伸ばした位置にあるもの」「もう少し手前のもの」など、伝え方の感覚を掴んでくる冒険者たち。
ようやく2つのアイテムを揃えたら、情報屋から地図を受け取りいよいよ図書館へ!
各チーム、探す本は2冊。ヒントを見ながら本探しをスタートしますが、ここでもうひとつ重要なことが。
それは、【誰ひとり取り残さない】こと。
最初はつい夢中になって、みえない人が取り残される場面もしばしば。はなせない人がボードに書き込み、きこえない人が内容を把握する。2人だけが理解したまま、ずんずんと進んでしまい、みえない人から「今なにをやってるの?」と不安の声も。
「村人」と呼ばれる、子どもたちを見守るファシリテーターが1チームにつき1人、付いてくれています。でも、村人はあえて余計な口出しは一切しません。“大人”目線の介入が入らないよう、細心の注意をはらってあくまで見守りサポートをしたり、気持ちを引き出す問いかけをするだけ。
「あれ?みえない子は、今の様子が何もわからないみたいだよ」
「やってみて、どうだった?」
子どもたちだけで気づき、1つ1つを言語化し、協力し合う意識を作っていくことが大切です。
みえない・きこえない・はなせないの役割は、ヒント獲得と本1冊ごとに交代し、3人が全ての役割を体験します。
「○○の本を探しているよ」
「場所を確認するために、いったん立ち止まっているよ」
「場所を移動するね。まず前に一歩、そしたら体の向きを変えて……」
自分が経験してなにに不安だったか、どうしてもらいたかったか。
あるいは、なにをしてもらったら嬉しかったのか――短い時間ながら体験したことを次に生かしながら、協力し合い、本を探します。
目当ての本を見つけても、本に触れるのはみえない人だけ。
「もう少し上」「ここだよ」と声をかけ、手を添えながら、本を手に入れます。
今回は、ムーさん・あきちゃんたちスフィーダ世田谷BFCのみなさん、そして茅ヶ崎市聴覚障害者協会の方々との交流の時間も設けられました。
「ブラインドサッカーのボールってどうなってるの?」
「監督はどうやって指示を出しているの?」
などなど、興味が尽きない冒険者たち。
両団体のみなさんが各テーブルをまわる間に、興味津々な様子でたくさんの質問を投げかけていました。
イベントの最後は、体験での気づきの発表と、「より良い図書館」にするためのアイディアソンの時間です。
シンプルに「怖かった」という感想も多かったこの日。
一方で、「ずっと手を繋いでいてくれた」「声をかけてくれて安心させてくれた」など、人の温もりに安心したという実感もあったよう。
また、「イエスかノーか、ジェスチャーでも答えられる質問をしてくれた」「歩くスピードを合わせてくれた」などの声もあり、各チームが理解し合おうという意識の中で、工夫しながらコミュニケーションを取っていたことが伺えました。
「手すりがあると歩きやすい」「行きたいところに連れて行ってくれるロボットがいるといい」「棚の形を丸くしたら安全かも」「道に大きな矢印をつけたら?」などなど、各テーブルで、多くの気づきやアイディアが並びました。
その後、茅ヶ崎市聴覚障害者協会の方からデフリンピックなど聴覚障害に関連したお話。
そして、図書館職員の方から、「誰もに開かれた図書館」としてすでに実施されている施策などの紹介がされ、イベントは無事終了。
「なにも障害がないことは、ふつうなようでふつうじゃない」
「それぞれがみえている・きこえているという前提のもとで、普段のコミュニケーションは成り立っているんだと気づいた」
「みんなが違うと、コミュニケーションがつながる」
当日、冒険者から出た感想の一部です。
日々馴れ親しんでいる身の回りの環境。
それ以外にも、世界は広く、多様な人がいる。自分が触れているのは大きな世界の一部にすぎず、きっとまだ、みえていない・気づいていない世界がある。
イベントを通じて得た気づきは、冒険者のこれからにとって大きな糧になるのではないでしょうか。
さて、最後に、最初の問いに戻りましょう。
もし、みえない・きこえない・はなせない人と出会ったら……。
「どう接したらいいかわからないから、触れないでおこうかな……」
「話しかけられても迷惑だろうし、最低限の関わりで済ませよう」
「きっと大変だろうし、難しいことは頼まないでおこう」
相手のことを傷つけたくないからこそ、気を回して遠慮したり、距離を取ったり。
そんな選択をするかもしれません。でも、そのままでいいのでしょうか?
今回の物語のキーワードであった「ガラスのびん」。
それは、一人ひとりの中にある「思い込み」、心のバリアを表しています。
恐らく誰もが、視覚・聴覚・言語などの障害に対して、何らかのイメージを持っていると思います。これまでの経験で培われたそれら=「○○ってきっとこういうもの」という思い込みこそが、自らバリアを張り、気づかないうちに自分自身をガラスのびんに閉じ込めているのかもしれません。
でもきっと、“メガネ”をはずして目の前の人のことを知ろうとすれば、そのガラスは消えるはず。
厄介なのは、一度消えたと思っても、気が緩むと再び現れてしまうこと。
その迷宮に迷い込まないようにするには、「もしかして今、迷宮に迷い込んでるかも?」と折に触れて意識すること。
そうすれば、ガラスのびんは自然となくなっていくはずです。
スローコミュニケーションプロジェクトでは、この「魔法書探し」のプログラムを各地の小学校で行えるように、探究学習教材化に引き続き、取り組んでいきます。
(そのためのクラウドファンディングを1月末〜3月2日まで実施しました。開始2日足らずで目標額を達成し、ネクストゴールの100万円も達成しました。ありがとうございました。)
これからも、カイ・ノア・ローガンとの旅は続きます。
今後の活動にも、ご注目ください!