特集記事

ホーム » 特集記事 » 【インタビュー】ひと・まち・コミュニケーションデザイン —「みんないるのが当たり前」の世界へ

サイト内検索

【インタビュー】ひと・まち・コミュニケーションデザイン —「みんないるのが当たり前」の世界へ

※本インタビューは2022年4月発行のスローコミュニケーションプロジェクト紹介冊子に掲載されたものです。

2019年9月に市民団体として活動を開始し、2020年5月に法人化。生まれつき重度の聴覚障害を持つ那須かおりさんと、手話通訳士の津金愛佳さん、茅ヶ崎の手話サークルで出会った二人が志を共に立ち上げた一般社団法人4Hearts。「聴覚障害者の生きづらさ」から始まった活動は、やがて「まちづくり」へと深化し、“スローコミュニケーション”の構想が誕生しました。約2年に及ぶ活動の中で、二人が体験した変化、今思うこととは? 那須さん、津金さんに話を聞きました。

那須かおり    津金 愛佳

 

「地域とともに」をキーワードに

ー 2020年5月に法人化されて、もうすぐ丸2年になりますね。改めて、4Heartsとはどんな団体でしょうか?

那須:聴覚障害は「情報・コミュニケーション障害」と言われています。きこえないから情報が入らず、判断ができない。判断ができないから、行動が起こせない。情報が欲しい。人と繋がりたい。でも、繋がるためには筆談などプラスのモノが必要で、それは煩わしいのでは……と遠慮や負い目を感じて、繋がることを諦める。そこをなんとかしようよっていうのが、私たちの考えです。

津金:今までって、当事者団体やその支援者が、そこだけで集まって社会に要望していく、という形が多かったんですね。でも私たちは、地域も巻き込んで、地域から変えていこうとしている。そこが特徴だと思います。

 

スローコミュニケーションは“環境”づくり

ー 新たに掲げた“スローコミュニケーション”(以下、スロコミュ)について教えてください。

那須:(当事者である)私が、負い目を感じずに社会に出ていくには?と考えた時、この二年間の経験から、二つのことが浮かびました。まずは、私自身の「一歩踏み出せる勇気」。きこえる人たちとの協働の中で、「申し訳ない」という負い目の感情が自分の根底にあることに気付いて。きこえなかったけど申し訳なくてきき返せない、迷惑かもと思って要望できない……相手は対等に接してくれているのに、当事者自身が自分を下げてしまうんです。それは違うなって思い始めて。もう一つは、周囲が醸す「言い出せる空気感」。「受け入れていますよ」と示してくれる――いわゆる、否定しない/されない環境だと思いました。「環境」を作り、「勇気」を引き出すのがスロコミュです。

津金:スロコミュは、“マインド”の話なんです。指差しメニューや筆談ボードといったツールの導入ももちろん必要ですが、それはあくまでツール。それを用いてどうするか?究極、ジェスチャーでもなんでもいいですよ!対応します!というマインドというか、心のゆとり。コミュニケーションの選択肢を知っているだけでも、ちょっと気持ちにゆとりが持てるのではないでしょうか?

那須:職場でも街中でも、ツールを配置して終わり、という例は多いです。でも、ハード面=「ツール」だけではなく、ソフト面=「マインド」も重要。だから今、マインド部分の研修カリキュラムも作っています。「気づきスイッチ」を押す研修というのかな。あらゆる障害を持つ人にアンテナが立つような……そんな内容を考えています。最近、私って地ならしをする役割なのかもと感じていて。

ー “地ならし”ですか。

那須:聴覚障害者は、欠格条項による職業制限があるんです。私も、本当は医者や獣医になりたかったんですが、当時は認められていなくて。小さい頃から、いろんなことを諦めてきたんですよね。それが染みついていて、今更やりたいことなんて言いにくい。でも、その制限は徐々に緩和されてきていて、今の大学生くらいが、職業の幅を広げている世代です。スロコミュは、これからの彼らが、やりたいことを言い出せる、その土台になるものでもあるんです。

津金:聴覚障害者が臆することなく言いたいことを言える、やりたいことができる。みんなが、それを受け入れる心のゆとりを持っているまち。そんなまちにしていきたいよね。これって、茅ヶ崎だからできると思っています。

 

ほんの少しの“気付き”が人を生かす

ー今後の構想をお聞かせください。

那須:一つは、子ども事業を考えています。学校講演などを通じて子どものうちからスロコミュを伝えていく必要性を感じていて。

津金:日本は、養護学校や特別支援学級があって、小さい頃から分けられた育ち方をしているから、きこえない人との接し方を知らないのも無理はない……。就職してから、障害者枠採用で入ったきこえない人と初めて会ったという人もいます。社会を変えるには、子どもの頃から、「みんないるのが当たり前」にする必要があるのかなって。

那須:津金の子どもの頃、教会の環境みたいなものだよね。

津金:そう。改めて私たちは、「障害者支援」ではなく、「まちづくり」をしていくんだってこと。みんな、臆することなく声を掛けて、訊いてほしいよね。知らないから遠目に見るだけとか、これって失礼かな?と迷って話せないとか……そうじゃなくて、まずは興味を持って、知ってほしい。

那須:まちの人が、ちょっと気付くだけで生きやすくなる人たちがいる。そのことを忘れないで……というか、気付いてほしいなと思う。そのほんの少しで、ここにいていいんだ、僕も/私も一員なんだと思える。魚屋のおじさんや、八百屋のおばさんと
「今日はこれが美味しいよ」「どう調理したらいい?」といった他愛もない会話に憧れます。私もできるようになりたいんです。そういうことって人を生かすから。
聴覚障害があってもなくても、誰だってそんな会話が自然とできたらほっこりしますよね!そんなまちを、私たちと一緒に作っていきませんか?

スローコミュニケーションプロジェクト肩を組み、笑顔で“OK”を作るしぐさは「みんな一緒に」 「誰もが歓迎されるまちづくり」のメッセージを込めました。tomioさんのイラストで、緊張した心をほぐす温もりあるトレードマークに仕上がっています。
ライター